
顧客インタビューを通じてインサイトを発掘する活動は新規事業において欠かせません。
しかし、事業担当者の多くは顧客インタビューを事業仮説に落とし込んだり、事業計画に反映させて行動したりすることまで、できていないのではないでしょうか。
アルベルト・アインシュタインの言葉に『私は1時間の時間を与えられたとしたら59分は課題提起に使い、残りの1分を解決策の策定に使うだろう』とありますが、新規事業において「顧客の解決すべきジョブ(課題)」を見つけて定義することはとても重要です。
顧客を正しく理解することで成功する事業創出につなげられるからです。
本記事では顧客を正しく理解して、事業の成功につなげるための顧客行動起点の考え方や、顧客理解のためのインタビューなどの手法をご紹介します。
1. 顧客行動起点とは?
①観察
②Job To Be Done
③Future-Job To Be Done
④Vision/Future Market Fit
2. 顧客に聞く〜ユーザーインタビューとは〜
①顧客の現状把握
②顧客の課題と代替手段の理解
③ステークホルダーを整理する
④専門家にヒアリングをする
3.初期化説を設定する
①アーリーアダプターを仮説設定する
②バーニングニーズを見つける
③バリュープロポジションを推定する
4.デプスインタビューをする
5.仮説を検証する
①MVP/PoC/MSP顧客に当てて確認をする
②エバンジェリストカスタマーをみつける
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1. 顧客行動起点とは?
新規事業において顧客を”正しく”理解することは必須です。残念ながら目的の設定ができていないサービスデザインは周囲に多くあります。身近な例として、綺麗に塗装された道の傍にあぜ道ができている光景を見かけたことがありませんか。実はこのあぜ道が本来把握すべきだった顧客の「ペイン」です。顧客は綺麗な道を歩きたいのではなく、最短距離で自分の目的地にたどり着くことを求めていたのです。
顧客のペインや本来求めていた”ゲイン”を正しく理解するためには顧客と徹底的に向き合い、寄り添うことが必要不可欠です。顧客に寄り添うことでわかったペインに対してソリューションを繰り返し策定していくことで新規事業創出のサイクルができます。顧客に愛されるプロダクトを作ろうとするのではなく、まずは顧客を愛することからはじめて、顧客行動を起点に事業を作ることこそまさに「顧客行動起点」です。
顧客の行動には意識的なペインとゲイン、無意識のペインとゲインの2種類があります。この2種類を正しく理解して顧客の行動を起点に事業を作る4つのプロセスをご紹介します。
①観察
顧客の意識的なペインとゲインは顧客インタビューや顧客の観察によって把握できます。現場に足を運び・現物を手に取り・自分の目で現実を視る「三現主義」にならい、顧客の行動や体験を観察をして、実際に同じ行動をして、顧客に実際にインタビューをするというプロセスを実行しましょう。
②Job To Be Done
観察のフェーズで顕在化した顧客ニーズを把握・理解したら、次に潜在化した顧客ニーズを見極めましょう。ここで見極めた顧客のペインが新規事業で解決すべき「ジョブ」となります。
③Future-Job To Be Done
ジョブを解決していくプロセスを繰り返すことで、マーケットには存在しない独自の提供価値を定義しましょう。
④Vision/Future Market Fit
マーケットに新しい価値を提供できることで、あるべき未来におけるUXやサービスデザインができます。これが企業としての新しい事業モデルとなります。
顧客を起点に新規事業を推進すると既存事業のマーケットシェアを奪ってしまう可能性もあります。こうした可能性があるからこそ、新しいマーケットを創出できる可能性が新規事業にはあるのです。もちろん飛び地の新規事業を作るという探索活動も重要ですが、既存事業は衰退することを前提に、ビジネストランスフォーメーションを目指した探索活動が必要になるのです。そのためにも、顧客の行動を起点にして解決すべきジョブを見つける活動が重要になります。
2. 顧客に聞く〜ユーザーインタビューとは〜
顧客行動を起点に事業を探索する際に「顧客に300回聞きに行け」という言葉があります。残念ながら、顧客に聞きけば欲しい情報が確実に得られる訳ではありません。
重要なのは、顧客に聞きに行く目的を定義し、顧客の声を聞く手法を知り、正しい手法を選択し、その声から顧客のインサイトなどを発見することです。回数はあくまでも結果論でしかないのです。
顧客行動起点の仮説検証のステップは5つに分けられます。最初は事業コンセプトを考えます。事業コンセプトのなかには当然顧客がいるので、顧客の現状を把握しにいきます。このときに「誰に聞くか」というのが重要です。顧客の現状把握の手段であるアンケートやサウンディングを行うことで、初期化説が見えてきます。
初期仮説を検証すると、結果のインサイトがその次の仮説になります。仮説検証は、デプスインタビュー、PoC(Proof of Concept)、MVP(Minimum Viable Product)、MSP(Minimum Sellable Product)検証などの手法があり、これらを繰り返すことで仮説検証とインサイト発掘のサイクルができます。仮説検証の末に事業コンセプトを修正する判断をすることもあるでしょう。こうした「ピボット」も顧客行動起点に仮説検証を繰り返すことで生まれます。
①顧客の現状把握
顧客の現状把握の手段に「アンケート」「サウンディング」「専門家ヒアリング」があります。アンケートを作成して、身近な友人知事に回答してもらいましょう。回答の傾向から共通点を見出して、特に気になる意見は直接話を聞きに行くことが重要です。
ここで注意したいのが、あくまでも顧客の今の状況と行動を知ることに焦点を置くことです。アンケートで分かった顧客属性をモデル化するのではなく、顧客の行動をベースにモデル化をするように意識しましょう。リサーチデータの平均値や中央値が必ずしも自分たちの事業のターゲットになるとは限りません。ビッグデータを参考にして事業アイデアを考えるのではなく、シックデータと呼ばれる人間の経験、行動、感情、気づきなどの定性的なデータに注視することが重要です。エンパシーマップなどを用いて顧客の感情も含めた行動を理解しましょう。
②顧客の課題と代替手段の理解
顧客が今何をしているのか知るためには「バリュープロポジションマップ」の作成が有効です。事業の概要や優位性などをまとめた「バリュープロポジション」とアンケートで得た顧客情報をベースに「カスタマープロフィール」を作成ましょう。
事業と顧客の2軸で情報を整理することで、顧客のペインとゲインがより鮮明になり、事業や製品で解決すべきジョブが整理できます。顧客が本質的に解決したい課題である「カスタマージョブ」を明らかにすることで、事業や製品が顧客にマッチしていないとわかることもあります。
「顧客はドリルで壁に穴を開けたい訳ではなく、壁に絵を飾りたいから穴を開けなけれなばらない」という例のように、顧客の絵を飾りたいというジョブに対して、穴を開けなければならないという課題を事業や製品でどう解決するべきか。バリュープロポジションマップを使うことで、製品と顧客が本質的に解決したい課題のあいだに生まれるギャップを見つけて理解することができるのです。
③ステークホルダーを整理する
正しい事業作りができたら、続いてはステークホルダーの定義をしましょう。新規事業においてすべての顧客がステークホルダーになり得ます。最終受益者と決済者が異なったり、各役割の担当者が複数人いたり、ステークホルダーは広範囲に渡ります。そのため、各人にとって価値提供の定義ができなければ、使ってはもらえません。
ディセンダント・ユーザーやアンビエン・トユーザーなど、ユーザーの定義についても考えておく必要があります。顧客価値連鎖分析や文化モデルなどで価値が誰に提供されるのか矢印で整理したり、業務を取り巻くプレーヤー同士の新要因を可視化したりしましょう。
手法は様々ありますが、手法ではなく事業を届ける「決裁者」「最終受益者」「意思決定者」などのプレイヤーを正しく認識することが重要です。
④専門家にヒアリングをする
顧客の視点では見えないステークホルダー、商流、トレンドを知ることも必要です。この場合は専門家にヒアリングをしましょう。専門家にインタビューできるサービスを利用したり、SNSで直接コンタクトしたりできます。
3. 初期化説を設定する
①アーリーアダプターを仮説設定する
顧客行動に関する情報を収集したら初期化説を設定しましょう。初期化説として最初に設定すべきは一番最初にサービスを使ってくれる人を設定する「アーリーアダプターの定義」です。
現在は物質的な豊かさが飽和しており価値観が多様化しています。これを消費に置き換えると、顧客の消費意欲は自己表現や自己実現が原動力となっており、「自分が必要だ」と思わない限り製品を購入しない現象が起きています。
つまり、マスプロダクションよりもN1マーケティングといった顧客を個別に見てカスタマイズしたプロモーションが求められています。「みんなにとっての良いものが、みんなにとってどうでも良いもの」とされる状況化において、製品をいち早く試してくれるアーリーアダプターの存在は事業拡大の重要な鍵となるのです。

キャズム理論には新しい物好きで何でも積極的に試そうとする「イノベーター」と呼ばれる層がいます。しかし、見誤っていけないのはイノベーターをターゲットにするとマーケットが広がらないという点です。また、アーリーマジョリティ層やレイトマジョリティ層もターゲットにすべき層ではありません。一定数のマジョリティーが存在する領域はすでに市場が成立しており、レッドオーシャン化しているためです。
ターゲットにすべき「アーリーアダプター」層は、トレンドに敏感で自分から積極的に情報を収集し行動を起こし、コストも支払います。言い換えると、アーリーアダプター層は現状に「不満」を持っているから、積極的に情報を収集し行動を起こし、コストを払っているのです。彼らの不満を解決するための事業を創出することで、「私だけしか必要ではないもの」を生み出すことができ、高い価値を提供できます。
アーリーアダプターを見極めたら、彼らの行動や感情を起点にしたカスタマージャーニーマップを作りましょう。
②バーニングニーズを見つける
アーリーアダプターと彼らの不満を見極めることで、彼らが直面している「バーニングニーズ」を見つけることができます。
事業は大別するとペイン型・ゲイン型・エンハンス型の3種類に分けられますが、新規事業はペイン型に分類されます。ペイン型とは「マイナスをゼロにする」という考え方です。新規事業に適している理由は、ペイン型の事業はレッドオーシャンからブルーオーシャンを見出して、周囲の当たり前を覆し、自分が戦いやすい土壌を作る性質があるためです。
ブルーオーシャンを見出すヒントに、社会における「不」があります。不自然・不公平・不条理・不都合などに着目することで、顧客が逼迫している課題である「バーニングニーズ」は見つかります。顧客は逼迫している課題に対する解決策が目の前にあればコストを容易に支払うため、バーニングニーズの探索は新規事業の成功においてとても重要活動と言えます。
③バリュープロポジションを推定する
続いて、バリュープロポジションの推定です。バリュープロポジションは、いまある常識を見直して、価値を再考することで見つかります。例えば、ホテルの提供価値は以前は「宿泊する」だけでしたが、Airbnbの誕生により、顧客はホテルに対して宿泊するだけでなく「現地の雰囲気や生活を楽しむ」という提供価値も求めるようになりました。他にも、タクシーはUberの誕生によって運転のプロだけが提供できるサービスから、免許を持っていれば誰でも提供できるサービスに変わりました。
このように、本来トレードオフの関係にある2つのバリュープロポジションを統合することで、新しい常識や圧倒的な提供価値を生み出すことができます。
4. デプスインタビューをする
続いて、デプスインタビューを通じて顧客の声を深く聞きにいきましょう。デプスインタビューとは、顧客を説得したり、プロダクトを説明するピッチではありません。顧客を理解するために、顧客の言葉に耳を傾け、観察し、学びを得る場です。
また、顧客から直接答えを聞いたり、アドバイスをもらう場ではありません。インサイトに辿り着くのは、インタビュワー自身です。顧客に対する深い理解をし、想定していた仮説を確かめ、あるいは否定し、ヒントや手がかりを得ましょう。また、顧客からインサイトを得るのがデプスインタビューです。顧客行動、課題、代替手段、残課題を確認しましょう。プロダクトそのものの確認をするのはその後のMVPやMSPの段階です。
デプスインタビューに望む際の前提として「ユーザーは自らのことを知らない」ということを理解しておきましょう。ヘンリー・フォードの言葉に『もし私が人々に何がほしいのか尋ねていたら早く走る馬がほしいと言ったことだろう』というものがあります。
顧客は自ら本質的に求めているものを知らないので、そのためにも深層心理を発掘するデプスインタビューが必要になるのです。デプスインタビューによって発掘した、顧客のペインやインサイトは「ジョブストーリー」に落とし込んで仮説を定義しましょう。
そしてペルソナやカスタマージャーニーによって事実を整理していきましょう。ジョブストーリーを構成する質問は5つで整理できますが、それそれで目的が異なります。事実を抽出するための質問、インサイト抽出のための質問、ソリューションの仮説設定のための質問に分類されます。
5. 仮説を検証する
①MVP/PoC/MSP〜顧客に試してもらって確認をする〜
デプスインタビューを終えたら、顧客のセグメント仮説とソリューション・プロダクト仮説が正しいかMVP、PoC、MSPで顧客に実際に試用してもらいましょう。
PoC(Proof of Concept)でコンセプト受容性を検証します。定義している顧客が本当にいるのか、課題はあるか、ソリューションが適しているか確認しましょう。MVP(Minimum Viable Product)でプロダクト受容性を検証します。まず顧客に本当に使ってもらえるのか、ゴールに達成できるのか、ユーザー体験を阻害しないのかを確認しましょう。MSP(Minimum Sellable Product)で経済的受容性の検証をします。このフェーズでは顧客に買ってもらえるのか、価格が妥当か、お金を払っても満足できるものか確認します。
仮説検証は何度も繰り返される可能性があります。一度で解を見つけようとするのではなく、検証する価値にフォーカスして、雑に素早く作り、作りながら顧客に評価される事業アイデアの深度を上げていきましょう。そして、意識すべきポイントは「みんなにとって良いものはみんなにとってどうでも良いもの」という点です。価値を届ける先はアーリーアダプターで、彼らに向けて正しく検証活動ができているのかを留意しましょう。
②エバンジェリストカスタマーをみつける
仮説検証により顧客を発見できたら、次に顧客開発をしましょう。顧客開発のためには「エバンジェリストカスタマー」、N1と呼ばれる層を見つけましょう。
エバンジェリスカスタマーとアーリーアダプターは異なります。エバンジェリストカスタマーとアーリーアダプターはゲインとペインに類似点はありますが、ビジョンへの圧倒的な共感と共鳴の有無という点で異なります。彼らは自分の課題を解決してくれた製品に対して感謝の気持ちを持ち、製品が市場に浸透する活動に貢献する姿勢を持っています。
エバンジェリストカスタマーは客観的に顧客を分析していては見つかりません。顧客に徹底的に共感して課題感なども含めたすべてに感情移入することで見つけられるためです。エバンジェリストカスタマーが明確になると、同じように製品に対して好意を持つ顧客が集まるコミュニティが構築できます。
顧客インタビューを通じて、インサイトを発掘し、解決すべきジョブを見つけ、Future Job To Be Doneを設定しましょう。顧客の現状把握をしながら仮説検証を繰り返すことで、アーリーアダプターやエバンジェリストカスタマーは見つけられます。
一番重要なのは事業担当者が顧客に徹底的に共感して感情移入することです。スティーブ・ジョブスが話していた例え話に『美しい女性を口説こうと思ったとき、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい?そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ』という言葉があります。
事業開発や製品開発を進めていくなかで、どんなに優れたビジネスモデルやフレームワークを使ったとしても顧客に対する愛と顧客の行動を起点にした理解がないと成立しません。もし顧客理解を深めることに興味がありましたら、成熟企業の顧客理解の促進を支援していた実績をもつキュレーションズに一度ご相談ください。